【取材レポ】思い通りのキャスティングが実現『ベイビー・ブローカー』ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨン、是枝裕和監督が登壇

カンヌ国際映画祭で、ソン・ガンホが韓国人俳優初となる「最優秀男優賞」そして「エキュメニカル審査員賞」の2冠を受賞した是枝裕和監督の最新作「ベイビー・ブローカー」。その日本公開を記念して6月26日(日)TOHOシネマズ六本木ヒルズにて、韓国から主演のソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨン、そして是枝裕和監督を迎えて舞台挨拶が行われた。

この話題作に豪華キャストが来日とあって、映画館には多くの取材陣もさることながら、プラカードを持った沢山のファンも多く駆け付け、熱気に溢れていた。その主役、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨン、是枝監督が舞台に登壇すると会場は大きな拍手に包まれた。

ソン・ガンホ
「こんにちは、ソン・ガンホです。」と日本語で挨拶すると「約2年ぶりに皆さんの前でこのようにご挨拶させていただきとても光栄で嬉しく思います。日頃から尊敬している是枝裕和監督の新しい物語、温かい物語を韓国のプロモーションを終えて、日本に来て皆様にご挨拶させていただけて、とても嬉しいんですけども、この物語は日本と韓国、韓国と日本に限った特別な話ということではなく、私たちが生きている中で感じ得る様々なことを伝えている物語だと思います。その映画を皆さんにこうして届けることが出来て本当に今日は意味のある一日になっていると思います。」そして「ありがとうございます。」と再び日本語で感謝を伝えた。

カン・ドンウォン
「こんにちは、お久しぶりです。カン・ドンウォンです。来ていただいてありがとうございます。」と日本語で挨拶し、「本当に久しぶりに日本に来ることが出来て大変嬉しく思っています。これから映画をご覧になると思いますが、どうぞお楽しみください。」と笑顔で挨拶。

イ・ジウン(IU)
「こんにちは、IUです。」と日本語で挨拶し「私も日本に久しぶりに来たんですけれども、空港にも多くの皆さんが来て歓迎してくださいました。また多くの皆さんが既にこの映画をご覧になって、“すごく良かったよ”と言葉をかけてくださいまして、初日からとっても気分がいいです。(客席の)前の方に泣いてるファンの方がいらっしゃるんですけども、私も日本に来るのが本当に久しぶりで、申し訳ないなという風に思います。私も皆さんに会いたいなと思っていました。私たちに映画に関心を持ってくださいましてどうもありがとうございます。」とファンを気遣った。

イ・ジュヨン
「こんにちは、私はイ・ジュヨンです。」と日本語で挨拶し「皆さんにお会いできて本当に嬉しく思います。日本の観客とお会いできる光栄な場が与えられて本当に嬉しく思います。日本でのスケジュールをこなしながら本当に光栄だと思います。また再びこういう機会が訪れるのかなと思うくらいです。昨日は監督と俳優の皆さんと美味しい日本料理も味わいました。日本で本当に意味のある時間を過ごすことが出来たと思いますし、残りのスケジュールもこのようにこなしていきたいと思います。ありがとうございます。」と喜びを語った。

是枝監督
「監督をやりました是枝です。まだ日本の公開3日目なので、全然ゴールではなくてスタートしたばかりなんですけど、15年以上前の釜山映画祭で“韓国で映画を撮るなら誰で撮りたいですか?”と言われたときにソン・ガンホさんの名前を出させていただいて、インタビューを終えて帰ろうとエレベーターを待ってたら、エレベーターが開いてソン・ガンホさんがいたんです。その偶然を何かたぶん縁があるんだろうなと思ってたんですけど、それがこういう形で作品に結実して、こんな素敵な日本の公開を迎えられたことを本当に嬉しく思っております。集まっていただいた皆さんありがとうございます。」と観客に感謝した。

どんな役であってもやらせていただきたい、光栄なこと
―ソン・ガンホさん、カンヌ国際映画祭、「優秀男優賞受賞」本当におめでとうございます。受賞した感想、是枝監督からのオファーがベイビー・ブローカー役だった時のお気持ちをお聞かせください。

ソン・ガンホ「カンヌ映画祭は、名前が呼ばれる前まで全く結果が分からないので、とても緊張した瞬間でした。そのあとステージに上がってから“是枝監督に感謝申し上げます”そして“素晴らしいキャストの皆さんに感謝申し上げます”というスピーチをしたことを覚えています。約6年前だったと思うんですけども、釜山映画祭でこの話を頂いた時に、是枝監督の前作は全て拝見していまして、とてもファンでしたし、とても尊敬している監督でしたので、是枝監督の新しい作品でということで、とてもワクワクときめきました。そして“どんな役であってもやらせていただきたい、光栄なことです”とお話しました。」

―監督、『ベイビー・ブローカー』のオファーをした時はどんな思いでしたか?
是枝監督「(上映前のため)ご覧になる前の方に話すのは難しいんですけど、映画の中でソン・ガンホさんが初登場するシーンを最初に思いついて、まずそこだけ書いたんです。その時はA4で3,4枚の短いショートストーリーだったんですけど、その最初のシーンだけでしたが、6年前のプロントにはソン・ガンホさんとカン・ドンウォンさんとペ・ドゥナさんの名前は書いていたので、本当に夢が叶ってこういう形になりました。」

2年連続でカン・ドンウォンと誕生日を祝う
―カン・ドンウォンさんも是枝監督と仕事をしたいと思っていたそうですが、実際ご一緒してどうでしたか?
カン・ドンウォン「是枝監督の作品は大好きで必ずお会いしたいと思ってましたし、一緒にいつかお仕事ができればという思いもありました。それが実際に映画を一緒にやることになって監督にお会いしたときに、現場ではとても優しくて皆さんご存じの通り、最高の監督でいらっしゃるので、その時間は楽しく、いい経験になりました。」
―印象と違った面はありましたか?
カン・ドンウォン「(笑)いいえ、特に印象が変わったという点はありません。いつも監督は同じでした。いつも優しくて現場で楽しく撮影されていました。撮影が終わる頃に撮影が終わることがとても寂しかった記憶があります。」
―誕生日も一緒に過ごされたそうですが
カン・ドンウォン「いいことなのか、悪いことなのか分からないのですが、監督が一人で誕生日を過ごすと聞いて、ご飯を誘って一緒に食事をしました。」
是枝監督「2年連続でドンウォンさんと誕生日を祝うという…撮影後だったかな。良かったです。」

イ・ジウン(IU)は、初めての長編映画
―イ・ジウン(IU)さん、今回の役はとても複雑な役だったと思いますが、どんなチャレンジになりましたか?
イ・ジウン「分量も非常に多かったですし、ドラマは出演したことがあったのですが、長編の映画に出演するのは初めてだったので、そこが挑戦といえば挑戦と言えるのではないかなと思います。私が演じましたソヨンという役は、非常に様々な設定がされているキャラクターで、映画をご覧になれば分かると思うんですが、ソヨンというキャラクターを説明する修飾が本当にいっぱいあると思うんです。ひとつの修飾語ではなくって、様々な設定というものを立体的に表現できるようにと監督と様々な会話を交わしましたし、そういったところを気にしながら演技をしました。」
―監督とお仕事をした印象は?
イ・ジウン「監督の作品を見て、全作も非常に好きだったんですけども、監督に最初にお会いして挨拶をしたときに見て思ったことなんですが、監督さんご本人は映画そのままの人だなと思いました。撮影を終えたあともその考えは変わりませんでした。」

イ・ジュヨンは、忘れられない思い出になる作品
―イ・ジュヨンさんは、ブローカーたちを追う刑事としてペ・ドゥナさんとともに別の目線で本作を見つめていく役どころでしたが演じられていかがでしたか?
イ・ジュヨン「私も是枝監督の大ファンです。そこで先輩の皆さん、それからペ・ドゥナさん、イ・ジウンさんなどと一緒に仕事をすることが出来たんですけども、普段も気になる俳優、監督と一緒に仕事をすることになったので、現場で沢山のことを学んで感じる姿勢で臨みたいと思いました。撮影が終わって今回のプロモーションのときも本当に素晴らしい思い出として経験が積まれているような気がします。私にとっては長く忘れられない思い出になる作品だと思います。」

思い通りのキャスティングが実現
―監督、オファーされた理由や撮影のエピソードなどは?
是枝監督「ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんはこの作品を一緒にやる前から映画祭でご一緒したり、日本に来日したときに僕が花束を渡す役をさせていただいたりと関係がもともとあって、ペ・ドゥナさんは前に一度映画を撮ってますし、その3人に関しましては最初からあて書きをしたんですが、イ・ジウン(IU)さんとイ・ジュヨンさんは、コロナ過で僕が家で韓国ドラマに嵌りまして、そこで見て本当に”うわっ!”て印象に残った2人にお声かけをしたんです。IUさんの昔からのファンには申し訳ない、にわかファンなんですが、韓国に渡ってオファーをして本当に夢が叶って、本当にありがとうございますって言う感じなんです。一番僕が幸せだった現場ですね。理想的な思い通りのキャスティングが実現してしまいました。すみませんでした、本当に。ありがとうございました。」と申し訳なさそうにしながらも嬉しそうに語った。

―監督の話を聞いてどうですか?
イ・ジウン「監督さんは私の音楽や作品をご覧になったとおっしゃってたんですが、私の作品をご覧になる前、私を知る前に、偶然韓国の食堂で監督さんを見かけたことがあるんです。その時私は監督のファンで、監督さんはまだ私のことを知らない状況だったので、挨拶したいなと思ったんですけどもすることも出来ず、そのまま通り過ぎました。でもそれから1年経ったあとに監督の映画に参加することができ、監督は私の作品や音楽を知っているということで、凄く不思議な気分がしますし、とても気分がいいです。」
―監督、一度スルーしてたんですか?
是枝監督「そうなんだよね」と申し訳なさそうに明かした。。

―イ・ジュヨンさん、監督の印象は?
イ・ジュヨン「私は大学生のとき、まだ映画について学んでいた学生の頃に是枝監督の作品を釜山映画や韓国のシネキューブという映画館に見に行くような一人の普通の学生でした。そして数年経って監督が私の作品を見たことがあるとおっしゃってくださって、私と言う俳優を知っていること自体、私にとっては不思議な経験です。それだけでも幸せな気持ちで作品に臨むことが出来ました。」

出待ちのファンの人数でカン・ドンウォンに勝ったと喜ぶソン・ガンホ
―日本で楽しみにしてこられたものや美味しかったものは?
ソン・ガンホ「日本には僕はかなり頻繁に来ているほうだと思います。2年前にも『パラサイト 半地下の家族』でポン・ジュノ監督と一緒に日本に来てご挨拶をしました。日本はとても好きですし日本の食事も大好きなので、いつもとても楽しみにしています。」と話すと空港の話題へ。「昨日成田空港に着いたんですが、成田空港は少し遠いですよね。もうじき羽田空港、金浦空港がまた復活すると聞いているので嬉しいのですが、いずれにしても昨日成田に降りたあと、話に聞くとイ・ジウンさんは日本での大変有名なスターで、韓国でももちろんスーパースターなので、日本で多くのファンがきっと空港に来るだろうという話を聞いていました。実際に100人を超えるファンの皆さんが空港に集まっていたんです。カン・ドンウォンさんを見に3人が来ていました。私は5人来てくださっていたんです。なのでとても気分のいい一日になりました。」と自慢気に話すソン・ガンホにカン・ドンウォンも苦笑い、会場からも笑いが起こった。

―空港を振り返ってどうでしたか?
カン・ドンウォン「昨日、ソン・ガンホさんと、この話についてだいぶ長く話していたんですが、(僕の)ファンのみなさん頑張ってください。(笑)」と恥ずかしそうに語った。
ソン・ガンホ「ドンウォンさんは、韓国から来た飛行機ではなく、パリからだったから3人しかいらっしゃらなかったと言い訳をしていましたが(笑)いずれにしても私は気分が良かったです。」と、空港の出待ち人数で勝ったことに、ご機嫌顔のソン・ガンホ。
カン・ドンウォン「最初、夕食の場で急に僕に“空港で何人待ってた?”と聞かれたので僕が“3人です”と言ったら、“俺は5人だ”と言われました。(笑)」と説明し会場を盛り上げた。

―お2人は仲がいいと言ってましたが。
是枝監督「だいたい現場はこんな感じですね。だいたいソン・ガンホさんがドンウォンさんをちょっといじって楽しむっていう、僕は大好きなんですけど。(笑)」

そろそろ終わりの時間ということで、ソン・ガンホと監督からひとことずつ

人生の価値が描かれた作品
ソン・ガンホ「尊敬する是枝監督と今回ご一緒しましたけど、日本の監督と韓国のキャストが一緒に作ったというところが大事だというよりは、今回映画をご覧いただければ分かりますが、この映画は日本人であっても韓国人であっても、私たちが生きているこの社会の中の私たちの姿、そして隣人の姿、また人生の価値が描かれた作品となっています。なので国を超えて誰にとっても共有、共感できる温かい物語だと思います。今日は貴重なお時間を割いて映画館に来ていただき、みなさんにもその思いを受け取っていただいて、共感していただけるそんな意味のある時間として記憶してほしいと願っています。今日はどうもありがとうございました。」

1人の赤ちゃんの運命を一緒に考えていただけたら
是枝監督「6年前に書いたプロットは、実は凄くシンプルな話だったんですけど、実際にこの映画を作るためにソウルに渡って、かなりベビーボックスの周辺の方たちの取材を重ねたんですが、それが非常に良かったなと自分では思ってます。取材をすればするほど、この物語が人間の命をどういう風に考えるべきなのか、それを登場人物たちがいろいろ悩む話だなと、ちょっとずつ最初に自分の思い描いた話から変わってきました。それは撮影を始めてからも変わっていくプロセスを経て、これから見ていただく作品になってます。いつも僕の映画はそうかもしれませんが、明快な答えが最後に待っているというよりは、登場人物と同じように見た方たちも旅を続けながら、1人の赤ちゃんの運命というのを一緒に考えていただけたら嬉しいです。楽しんでください。」

ソン・ガンホさんとカン・ドンウォンさんのやりとりから仲の良さが垣間見れた舞台挨拶でした。これだけの話題作と韓国の豪華キャストが日本で揃うのは稀なこともあり、多くの取材陣とファンの方が駆け付けました。空港にも100人以上は待っていたという日本でも高い人気を誇るイ・ジウン(IU)さんは、ファンに手を振ったり、ハートを作ったりとファンサービスも沢山されていたのが印象的でした。「梨泰院クラス」などに出演した注目女優のイ・ジュヨンさんもファンに沢山応えていました。

映画は日本にも存在する“赤ちゃんポスト”をきっかけに出会った様々な事情を抱える人たちが、赤ちゃんをめぐって悩み奮闘する姿。思いは人それぞれだが、いつの間にか観ている側も一緒に居るような空間に惹きこまれる作品だ。

映画「ベイビー・ブローカー」


■監督・脚本・編集:是枝裕和
■出演:ソン・ガンホ  カン・ドンウォン  ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
■製作:CJ ENM
■制作:ZIP CINEMA
■制作協力:分福
■提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.
■配給:ギャガ
クレジット:ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
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