【取材レポート】イ・ジョンヒョン、ソ・ヨンジュ、カン・イグァン監督 東京国際映画祭『未熟な犯罪者』合同インタビュー
2012年10月20日から28日まで開催した第25回 東京国際映画祭コンペティション部門に招待された映画『未熟な犯罪者』で来日したカン・イグァン監督と主演のイ・ジョンヒョンさん、ソ・ヨンジュさんが、10月26日(金)試写会後、合同インタビューに応じてくれました。
Q.オーディションで600倍の倍率のなか、ソ・ヨンジュさんが選ばれたそうですが選んだ理由を教えてください。
カン・イグァン監督:実際に私が考えていたのが子供から青少年に移り変わる間くらいの中学1年、2年生位の子を探していました。韓国ではお母さんが演技をさせるので小学生は多いのですが、中学生になると勉強に集中させるために数が減り、高校でまた増えるのですが、大学準備の頃になるとまた減ってくるという状況があります。今回はソウルを含め、その周りの京畿道(キョンギド)という所まで範囲を広げて各学校にオーディションの告知を出し、他にも演劇部や過去に商業映画やドラマに出たことがある子役を抱えているエージェントなども訪ねたのですが、なかなか見つからず、その後に公開オーディションをやりました。何回も過程を踏んで彼に行き着いたのですが、実際に中学2年生でしたし、深い眼差しに魅力を感じて彼に決めました。
Q.イ・ジョンヒョンさんは役作りの為に何かされたことは?また、自身と役との共通点はありますか?
イ・ジョンヒョン:最初に監督から未婚の母の役と話をいただいた時に「実際の未婚の母というのは見た目もお母さんらしく見える人が少ない」「友達みたいな感じの人が多い」という監督の話を聞いて、私をキャスティングしてくださってありがたいという感謝の気持ちを持ちました。ただ、私が果たして演技が上手く出来るのかとても心配だったので、監督の「サグァ」という作品性のある映画を見て、監督を信じて出演をしようと決めました。役作りに関しては、未婚の母の感情を知りたくてドキュメンタリーを沢山見て彼女達の心理状態をいろいろ探っていきました。そして実際の私とヒョスンが似ているところは、何かお願い事をする時に私も笑顔でお願いするところです。
Q.初めて会ったお互いの印象は?
ソ・ヨンジュ:イ・ジョンヒョン姉さんに初めて会った時は、本当に美人で綺麗だなと思いました。お母さんというよりもお姉さんという感じがしましたし、僕より童顔ですよね?(「まさか~」と照れるイ・ジョンヒョンさん)
イ・ジョンヒョン:私はヨンジュ君のオーディションの時に一緒に行って会ってるんです。監督の方からオーディションに立ち合って欲しいと配慮していただいて感謝しています。監督は俳優達と沢山対話をする監督と思っています。オーディションでは私もヨンジュ君が一番いいなと思っていたので、実際選ばれて嬉しく思いました。(どんなところが一番いいと思いましたか?)彼が着ていた白いフード付きのTシャツと、とても自然な演技が良かったし、とてもハンサムなところもいいなと思いました。
Q.最初の印象と実際はどうでしたか?
カン・イグァン監督:イ・ジョンヒョンさんは1996年にチャン・ソヌ監督の「つぼみ」という映画に公開オーディションで選ばれて初めて出演していたのですが、当時15歳なのでちょうど今のヨンジュ君と同じくらいの歳で、それを見て“演技が上手だな~”と思いました。その後彼女は歌手活動をしていたので最近何をしているのかなと気になっていたところ、パク・チャヌク監督が撮った「波乱万丈」という作品でジョンヒョンさんは演技もとても上手で、今でも演技に対する感覚と情熱があると思いました。最初の第一印象はメイクやパフォーマンスをする歌手としての姿がとても強かったので、じっくり顔を見ることが無かったのですが、実際に会ってみたら本当に優しい感じがして、今回のキャスティングの基準というのが表向きは子持ちに見えないような未婚の母というのを考えていたので、この役にもピッタリだなと思いました。
ヨンジュ君は公開オーディションをしなければならない状況の中で出会ったのですが、私が考えていたのは子供過ぎる子でもダメだし、かと言って高校生に近いような子でもダメでピッタリの子を探すのが大変だったんです。今は彼の身長が180㎝位ですが、会った時は172㎝位で1年で10cm近く伸びたので、今よりは幼く見えて、中学生らしい中学生だったんです。ジョンヒョンさんと一緒にいるとお母さんと息子という感じが出るなと思って選んだのですが、実際ヨンジュ君と話をすると、最近の一般の子供と少し違い純粋でサッカーが好きで子供っぽいところもあったりして、そんなところもいいなと思って選びました。
Q.記者会見の時にイ・ジョンヒョンさんは“感情を爆発させるシーンが苦労した”とのことですが、ソ・ヨンジュさんはどこが苦労しましたか?またそれらのシーンに対しての監督のお気持ちを教えてください。
ソ・ヨンジュ:今回の映画の中で“お爺さんの家で僕が泣くシーン”があったのですが、僕が集中出来なかったせいか、なかなか感情が掴めなかったんです。あのシーンを撮る時は大変で、監督が隣でいろんな話をしてくれて助けてくださったのですが、やっぱりあの時の感情を作って撮るシーンが一番大変でした。
カン・イグァン監督:その泣くシーンは、ただひとつの悲しみだけではなくて他の感情も交じったうえで、悲しくて泣いている姿にしたかったんです。僕としてはあまりにもいろんなことを要求し過ぎてしまったかなと思うのですが、あのシーンは撮影の初期の頃、徹夜でほとんど一日かけて撮ったシーンでした。ジョンヒョンさんが苦労したシーンについては私もモニターを見ながら本当に驚いたシーンでもあったんですが、ジョンヒョンさんは凄く直感が働く女優さんで沢山話もしましたが、エネルギーを集めて一気に噴出させることが出来る女優さんだと思いますので、準備をしてもらってあとはお任せするという感じで撮りました。動きもカメラがジョンヒョンさんを追う形で撮ろうとスタッフもしっかり準備して臨んだので、本当に上手く演じてくれて私としては満足しています。
Q.劇中の2人は今後どんな母、大人になっていくと思いますか?
イ・ジョンヒョン:ヒョスンは仕方なくもう一度飲み屋で働いて、早く借金を清算して普通の家庭を持とうとしたと思います。借金が無くなればいい職業にもつけて、息子の事を信じて希望を持っていけると思いますので、苦労はするかもしれませんが、おそらく幸せになっていったんじゃないかと思います。彼女自身も二度と堕落するのは嫌だと思っていたはずなので、おそらくハッピーエンディングになったはずです。
ソ・ヨンジュ:少年院にも2回行ったジグは、お金を稼ぐ方法もないので仕方なく窃盗などを何度かしてしまったのですが、時間が経っていろんなことを悟って、きっといい大人になっていると思います。母親も自分も犯罪少年だったという過去がありますので、そういった過去を背負いながらもその後はしっかりとお金も稼いで幸せに暮らしていったと思います。
カン・イグァン監督:今回映画で描いた部分は、2人が沢山会うなかでの初期の頃だと思うんです。離れていた2人が再会して、お互いのことを知っていくひとつの過程だったと思います。その後もまた会い、またいろんな形で喧嘩して離れてまた会ったりを繰り返して平坦ではなかったと思います。ジグも若いガールフレンドを妊娠させてしまうなどいろんな問題や経済的な問題も生じてきたんじゃないかなと思います。それに伴ってまた新たな悩みもどんどん出てきたと思うのですが、ヒョスンが勇気を出して少年院に行って息子に会ったという決心が大切で、辛いことがあったとしても、やっぱり“会う”ということの大切さがあると思いますので、お互いその後も助け合いながら生きていってほしいなと思います。
Q.撮影前と後では何か気持ちの変化はありましたか?
イ・ジョンヒョン:私は最初、犯罪を犯した未婚の母に対して良くない視点を持っていたんです。会うのがちょっと怖かったんですが、よくよく知っていくと、社会から守られず、大衆や家族からも阻害されていて本当に可哀そうだなという気持ちがどんどん募っていきました。未婚の母になるというは性教育もきちんと受けられない、家庭から捨てられてしまった結果、未婚の母になるというケースもあって、その人達がどうにか守られてほしいという思いが強くなりました。少年犯罪を犯した子供達に対しても最初は本当に怖かったんです。子供とは言っても大人の犯罪者と同じなのではないかと思っていたのですが、事実を知るにつれて子供達は平凡な子であって家庭的に恵まれなかったりして、仕方なく犯罪者になってしまうということがあるんだという事を監督からも話を聞きましたし、実際の状況もそうだと分かりました。子供達の目を見たら本当に清らかな澄んだ目をしていたので、この子達も社会や家庭から本来守られるべきだと思いました。そう考えると未婚の母も犯罪を犯した少年達も本当に気の毒に思えて仕方なかったので、優しい温かい目で見つめて抱きしめてあげたい気持ちになりました。
ソ・ヨンジュ:やっぱり僕も最初は少年であれ、少女であれ、犯罪を犯して少年院に入っているので怖かったのですが、実際会ってみたら考えが変わりました。本当に平凡な少年や少女達で、どうしてこの子達が犯罪を犯してしまったんだろうかと考え、僕のほうから近づいて話しかけるようにしたんです。話しかけることによって彼ら達もまた平凡な子になれるのではないかと思いました。そう思った時に自分自身が変わったなと思ったんです。前は近づこうとしてなかったのに今は近づけるようになったので自分自身が変わったと思います。
Q.イ・ジョンヒョンさんはドラマや日本でも歌手デビューし、紅白歌合戦にも出演しましたが、日本での活動の思い出と、また日本でも活動したいという思いはありますか?韓国では「クレイジー」などがヒットしコスプレ風の衣装も話題になりましたが、その時のお話をお聞かせ下さい。
イ・ジョンヒョン:日本での活動は紅白歌合戦に出られたということが光栄で未だに忘れられないです。あの時は指にマイクをつけて歌ったのですが、その後に出したCDもチャートで1位をいただくという信じられない結果もいただきました。特別な活動をあまり出来なかったにも関わらずそのような結果が出て本当にありがたく思います。その後私は韓国での活動がメインになってしまったのですが、次に決まっている作品も映画なので日本でもまた映画や演技で日本にも来ることが出来ると思います。今度出すアルバムもアジアでのリパッケージで日本も含まれますので、こちらを通してお目に掛かることがあるかなと思います。韓国での活動ですが、韓国では多種多様な姿を見るのが好きなようで、次のアルバムも変身した姿をお見せ出来ればいいなと思います。
Q.イ・ジョンヒョンさんの若く見られる秘訣を教えてください。
イ・ジョンヒョン:まずはゆっくり眠ることです。寝る時も姿勢を正しく真っすぐ寝るんです。そうするとこによってシワが寄らないようになるんです。(真っすぐ寝るジャスチャーをしてくれました)それからパックも毎日しています。飛行機もよく乗るのですが、乾燥するので乗る時は必ずパックしています。
Q.今回の映画祭の感想をお願いします。
ソ・ヨンジュ:僕はこのように招待を受けて来るのが初めての経験なので、本当にワクワクして胸がときめくような思いでした。実際に来てみたところ胸がときめくのはそのままで、さっきこの部屋まで来る時にも本当に沢山の方が助けてくださっていることがよく分かりました。本当にこの場に居られることがとてもありがたいです。
イ・ジョンヒョン:東京国際映画祭はアジアで一番大きな映画祭で、そのコンペティション部門で私達の作品が招待されて最初は信じられない思いでした。出品されるという知らせを監督から聞いた時は、その場で叫び声を挙げてしまうほど嬉しかったんです。沢山の作品の中から選んでいただいて本当に感謝していますし、光栄に思っています。それに私は日本が大好きで日本の食べ物も大好きなんです。ご招待いただいたのでこんな風にもう一度来ることが出来て感謝しています。(好きな日本の食べ物は?)梅干し特にカリカリ梅、セブンイレブンの納豆巻きとおでんが大好きで、お茶漬けも家で食べたりします。
Q.日本と韓国の反応の違いはありましたか?
カン・イグァン監督:東京国際映画祭に来ることが出来てとても嬉しいですし、光栄に思っています。この作品は韓国では11月末の公開で、来週から試写会が始まる予定ですので、この東京国際映画祭が初めての上映になりますので私にとっては日本での反応がとっても大切なんです。日本のお客さんは本当に真摯な気持ちで真剣に見てくださっているなと感じました。日本と韓国は社会のシステムが似ているところもあるようなので皆さんが共感して見てくださっていたようでとても気分がいいです。
Q.自分の母親と再会してなかなか心を開かなかったジグを演じてみてどうでしたか?
ソ・ヨンジュ:ジグは最初、母親の前で心を開かなかったのですが、母親の方から心を開いて話しかけてくれたことによってジグも心を開いたと思います。そんな風にしていくうちに母親が自分を捨てたということも消えていって母の事を好きになり、信じられるのは母親だけだと思っていたと思います。でも母がまた自分のことを捨てて去ったりと繰り返しだった為に、母親に対する憎しみの気持ちも募っていったのかもしれないですね。
Q.イ・ジョンヒョンさんは母親役を演じてみて結婚観や親子観など変わったことはありますか?
イ・ジョンヒョン:私にとって母親とはいつも常に大切で愛する人なので母に対する思いは以前から変わらないのですが、今回この映画を撮りながら結婚観が少し変わり、早く結婚すべきではないかと思いました。もう年齢も年齢ですし、彼氏もいませんのでいつになるか分からないです。もしいい人がいたら紹介してください(照)。(子供は?)子供は出来れば3人欲しいです。ヨンジュ君のような息子3人か、女の子も好きです。
また、10月28日にクロージングした東京国際映画祭では各賞が発表され、コンペティション 審査員特別賞 に『未熟な犯罪者』カン・イグァン監督とコンペティション 最優秀男優賞に ソ・ヨンジュ(『未熟な犯罪者』)が見事受賞しました。
【作品紹介】
◆映画『未熟な犯罪者』(2012年/107分/韓国語/韓国)
保護観察中の16歳の少年が祖母を失い、天涯孤独の身となろうとするその時、死んだはずの母親が現れる。彼女は17歳の時に彼を産み、逃げたのだった…。未熟すぎる母親と大人になれない少年のせつない関係を、瑞々しさ溢れる役者の魅力を得て繊細に綴った親子の物語。
監督/脚本/エクゼクティブ・プロデューサー:カン・イグァン
出演/ヨ・ヨンジュ、イ・ジョンヒョン、チョン・イェジン
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