「イクチュンと洋次郎は表現者として似ている」ヤン・イクチュン×RADWIMPS野田洋次郎×松永監督が大いに語る『息もできない』トークイベント【オフィシャルレポ】


2009年の作品発表時、世界の国際映画祭・映画賞で25以上もの賞に輝き、2010年の日本公開時にも、大きな話題を呼んだ『息もできない』。

7月19日に9周年を迎えた新宿ピカデリーにて、この伝説の映画『息もできない』の三夜限定(8/7、8/8、8/10)上映&トークショー開催!

最終日の8月10日(木)には、本作の製作・監督・脚本・編集・主演を務めたヤン・イクチュン監督と親交のあるRADWIMPS野田洋次郎さん、野田さんが主演した『トイレのピエタ』の松永大司監督が登壇。
3人の出会いのきっかけやお互いの作品の印象などを大いに語り、仲の良さが感じられるトークイベントとなった。

◆日時:8月10日(木)
◆会場:新宿ピカデリー スクリーン1
◆登壇者:ヤン・イクチュン、野田洋次郎(RADWIMPS)、松永大司(映画監督)
※敬称略

『息もできない』上映後、MCの呼び込みで、ヤン・イクチュン監督、野田洋次郎さん、松永監督がにこやかに登場。ヤン監督の「最終日だから、こんなに大きな会場なのか、野田洋次郎さんがくるからそうなのかわからないですが、来てくださってありがとうございます」と冗談を交えての挨拶を受け、「今日は僕の大好きな『息もできない』という作品を多くの方に観てもらいたい、と思い、ぜひ参加したいと思ってきました」(野田さん)、「僕も大好きな作品。3人で話せるのを楽しみにしてきました」(松永監督)との挨拶からスタート。

MC:この3人の出会いは?
松永監督:僕は2012年に韓国の映画祭でイクチュンと出会って、そこからの縁です。そのあと、『トイレのピエタ』を野田洋次郎と作るにあたり話をする中で『息もできない』が好きだということを知り、それで3人でゴハンを食べたのが最初です。
野田さん:そう、最初レストランで食べて。2回目は僕の家に二人が来て、僕の作った鍋をみんなで食べました。
ヤン監督:覚えていますよ。ふんぞり返って食べていました。(野田さんから「すごく食べてました」とツッコミはいりつつ)煙草を吸ったベランダも覚えています。
松永監督:(ヤン監督から、松永監督とは最初韓国で冷麺を食べながら仲良くなったと言われ)そうです、イクチュンはレストランで中学生くらいの英会話の本で勉強していましたね。
野田さん:でも英語全然上達していないですよね、英語より日本語のほうが上手くなっている気がする。(「何のことですか?」と大笑いしながらとぼけるヤン監督)
ヤン監督:日本に来ても、こんな風に気楽に会える人がいるってことは珍しいことだと思います。普段は忙しくてなかなか会えないんですけど、今日は忙しくなかったみたいですね(笑)
野田さん:無理してきたんだよー!(これにはヤン監督も日本語で「スミマセン」)
最近は僕が韓国でライブすることも多くて、そのときは忙しくても必ず見に来てくれてありがたいです。
ヤン監督:野田さんのライブは本当に素晴らしくて、胸がわくわくして心臓が飛び出すくらいエネルギッシュなステージです。アフリカとか南米とかで踊りながら祭祀をすることありますよね、そんな感じで酔いしれてしまうんです。
野田さん:これって褒められているのかなぁ(笑)。でも確かに初めてライブ観たあと、「あの動きが~」ってずっと(身振り手振りを)みせてきてました。

MC:今日『息もできない』を御覧になって直後ですから、観客の皆さんはこんなにヤン・イクチュンさんが気さくな方だと思っていなかったでしょうね。
野田さん:僕も初めて会ったときはビビッて行きましたからね、イクチュンずっとサングラスしてましたし(笑)
松永監督:僕も最初会ったときに、この人が『息もできない』主演のヤン・イクチュンってわからなかった。

MC:お二人が『息もできない』を御覧になったときの感想を改めて教えてください。
野田さん:表現のすべてに妥協がなくて、伝えたいものがあふれ出していて。僕はそういうものが好きなんですね。これを伝えなきゃダメなんだ、これを表現しないと何も先に進めないんだ、自分は!っていうエネルギーを感じて。しかもそれを映画でやりきっていて、“表現者”としてすごいなと。
松永監督:最初の劇映画である『トイレのピエタ』と撮る前に、イクチュンにすごい言われたのは「一本目の映画は絶対に妥協しちゃだめだ。自分の監督人生を大きく変えるものだから、絶対に大事に作りたいものを作れ」と。『息もできない』もそういうところが魅力的ですよね。

MC:ヤン監督は『トイレのピエタ』は御覧になりましたか?
ヤン監督:観ました。キャスティングの中で野田さんは適役だと思いました。以前から松永監督にはこの映画の話は聞いていて「あるミュージシャンをキャスティングしようと思う、彼の情緒があっていて、存在自体がこのキャラクターと重なるところがある」と。劇中で表現されている野田さんの姿と、現実の野田さんの姿が本当に似ているなと思いました。
野田さん:イクチュンがこんな真面目な話をしているのを初めて聞いた!普段はくだらない話しかしないし、イクチュンどこかしら体調が悪くてお腹が痛いとか、皮膚がかゆいとか言ってるし。(という話には、ヤン監督が「この二人といると自分が末っ子みたいな感じなんですよ、アニキ!」と野田さんに呼びかける場面も)
松永監督:感想をちゃんと聞いたことがなかったので感動しています(笑)

MC:ヤン・イクチュンさんはこれまで『かぞくのくに』『中学生円山』に出演するなど日本映画や日本文化にかかわって、何か影響受けていることはありますか?
ヤン監督:日本と韓国、映画を作る環境は似ているようで違います。日本映画は長い歴史の中でシステムが作られていて、韓国は影響を受けている部分もあると思いますね。私も学ぶところも多くて、現場でも目で見て耳で聞いて色々なことを習得しています。
あと、韓国では年齢が1歳違うだけで相手を(兄貴なのか先輩なのか)どう呼ぶべきか困ることがあります。私と野田さんや松永さんは年齢が少しずつ違いますが、日本に来ると年齢を越えて友達になれるんですね。芸術をやっている同志だと年齢や国を越えられるのかなぁと。
野田さん:そうかもしれませんね。僕も年齢が上の方とも、松永監督ともケンカをしながら仕事をしていて、それができるのは強みでもありますしね。 ところでイクチュンに質問があるんだけど、監督業と役者業と今どちらが楽しいの?
ヤン監督:元々俳優になりたいところから始まったのですが、それは自分の中に抱えているものを解き放ちたい、という理由からで、それを排出する先として演技をしていた。でもそれが上手くいかなくて後で演出をするようになり、人はあとから学んだものにハマる傾向があるのか、私はいま演技よりも演出のほうがはるかに難しいなぁと、時間もかかるけれど楽しいなと思っています。
松永監督:一足先に『あゝ、荒野』を観たのですが、イクチュンの芝居がすごくて、僕はこの二人(イクチュンと野田さん)が似ているなと思っていて、ロジックというより本能で身体を動かして芝居をする、表現者としてのタイプが似ていると思ってます。
野田さん:イクチュンってアップダウンの差が激しくて、スクリーンで爆発する彼の姿を見ると、彼の明るさだったり表に対しての優しさだったり、そういうことが両輪なんだなぁと。自分の中で爆発するほどの怒りや悲しみの大きさ、それらの両輪があって初めて、表現として一人の人間として成立しているのだと思う。僕の中にも(同じことが)歌の表現のメインの軸としてあって、どちらか片方では生きていけなくて、その振れ幅がどのくらい大きいか、そこに親近感を覚えます。
ヤン監督:私も実はあまり自分のことを役者ですとは言わずに「表現する者です」と言っています。野田さんはじめミュージシャンの方の素晴らしい公演をみると、ステージの上で自分の持っているものをすべて投げ出しているように見えます、私もそんな風に演技をしたいという気持ちになります。野田さんの公演を見ると本当に心臓がどきどきしていました。そんな風に自分のパワーを出し切ったという演技をしてみたいです。
松永監督:わかります。僕も洋次郎とモノを作りたいと思ったのはライブでのパフォーマンスをみて、この人はいい表現をできるのではないか、って。芝居ということでなくても中にあるものを外に出すパワーに満ち溢れていたんですね。
野田さん:僕にいま演技のお話が色々来るのも、最初に松永監督が僕を見つけてくださったからで、本当にありがたいですし、僕自身気づかなかった、違う、新たな選択肢を頂けた気がしています。

MC:これだけ皆さん仲が良いと、この3人で何か作ろうなんて話になったりしませんか?
松永監督:すごい魅力的な二人ですし、一緒にやりたいですよね。この二人が一緒に芝居したら、どういう化学反応が起こるかみてみたいですね。
野田さん:そうですよね、だからいきなり菅田将暉にやられてビックリしましたよ、(僕は)いきなり飛ばされていったなぁと!(笑)
ヤン監督:もし野田さんと一緒にできたら、私がミュージシャンの役をやりますので、野田さんは「ゴロツキ」の役はいかがでしょう?(会場大爆笑)
野田さん:僕もできたら自分とは違う役柄がいいですよね、そして自分の中にある何かを表現したいなというのはありますね。『トイレのピエタ』では売れない画家で、この前のドラマでは売れない小説家の役だったので、売れないシリーズ制覇していくのかなぁ(笑)ですのでゴロツキ役とかいいですね

最後に、3人の近況として、「“THE YELLOW MONKEY”のドキュメンタリー映画が11月に公開になります」(松永監督)、「10月にライブDVDが発売されます。主題歌をやった『東京喰種 トーキョーグール』(公開中)、『ナラタージュ』(10/7公開)があります」(野田さん)、そしてヤン・イクチュンから「『あゝ、荒野』が10月に公開されます。他には出演した『春の夢』が日本で公開中で、声優として参加した『我は神なり』という韓国のアニメーションも公開されます。韓国に戻ったらドラマの撮影がありますが、まずは(日本語で)『あゝ、荒野』ぜひごらんください!」と元気よくアピール。

そして、「この上映トークイベントに来てくださったゲストの皆さんに感謝しています。『息もできない』はシナリオを書いたのが11年前、久しぶりにこの作品と向き合うのは大変なことで(笑)言うなれば別れた彼女に会うような感じで、でも素晴らしいゲストの皆さんと観客とお会いすることができてうれしかったです。でもゲストの皆さん、全員私より身長が10cmくらい高い方ばかりで!そんな方ばかり呼んでくれてありがとうございました!」と最後はユーモアたっぷりの挨拶で、3夜にわたって実施された上映トークイベントを振り返り、第三夜もヤン・イクチュン、野田洋次郎さん、松永大司監督の仲の良さと互いへのリスペクトが終始感じられ、和気あいあいとした雰囲気の中イベントが終了しました。

『息もできない』あらすじ
偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。でも、そこから運命が動き始めた…。「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。
父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる取り立て屋の男サンフンと、傷ついた心を隠した勝気な女子高生ヨニ。
歳は離れているものの、互いに理由なく惹かれあった。ある日、漢江の岸辺で、心を傷だらけにした二人の魂は結びつく。
それは今まで見えなかった明日へのきっかけになるはずだった。しかし、彼らの思いをよそに運命の歯車が軋みをたてて動き始める…。
監督・脚本:ヤン・イクチュン
編集:イ・ヨンジュン、ヤン・イクチュン
撮影:ユン・チョンホ
美術:ホン・ジ
録音:ヤン・ヒョンチョル
製作:ヤン・イクチュン
音楽:インビジブル・フィッシュ
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン
提供:スターサンズ
配給:ビターズ・エンド、スターサンズ
R-15+/DCP
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